SOCKS
「大人気大人気」2025.08.06 OUT

普通の人ならば誰にでもあるような“日常”をユニークな視点で切り取り、コミカルかつクールに昇華させた自身の音楽を“平日の芸術”と称しているSOCKS。最新アルバム「大人気大人気(おとなげだいにんき)」でもそのカラーは顕著で、特にリリックでは、一切の背伸びをせず自然体で振る舞う彼が、毎日の生活を純粋に楽しむ様が描かれているように思う。これまでにもそういった楽曲は少なくなかったが、本人も「今回のアルバムは“簡単”がコンセプトの1つ」と語る通り、一度聴いただけでスッと理解できることを追求したような楽曲が今作には並ぶ。そればかりか、一度だけで耳に残ってしまうほどのインパクトも備えている。そんなアルバム「大人気大人気」は、今のSOCKSの真骨頂を知らしめる作品であると言えそうだ。

唐突だが正直に白状すると、本稿執筆の依頼をいただいた際、筆者はどう書くべきかと迷ってしまった。それはなぜか――。たとえば、腹を抱えるほど爆笑してしまったコントをテレビで観たとしよう。しかし、それを観ていなかった人に対して、いくら頑張って口で説明したところで、残念ながらその面白さはおそらく伝わりきらない。そのときの空気感や間、芸人の表情など、さまざまな要素が絡み合ってこそ面白いものは、実際に体感するほかないのだ。まさに、百聞は一見にしかず。すべてを詳細に解説することは困難だし、むしろネタバレさせて「え?それってホントに面白いの……?」というネガティブイメージを与えてしまうことすらある。もはや、いかに面白いかを解説しようとすること自体が野暮なのだ。もちろんSOCKSのラップはお笑いではない。しかし、面白い。同じような状況に陥る懸念は十分にあったし、それだけは絶対に避けたかったからだ。

そういうワケで、SOCKSに直接話を訊くことにした。しかし「どんな想いでアルバムを作ったのか」とか「どうしてこういう曲にしようと思ったのか」といった大真面目な質問を投げかけ、回答をそのまま原稿にするのは気が引けた。なぜなら、コミカルなラップを真剣に考えて作った背景など、知りたい人のほうが少ないと思ったから。無論、コントや漫才だって、ネタを考えて何度も練習しているからこそ生まれる笑いが大半だ。同じように、SOCKSだって真剣に曲のことを考えてはいるはずではある。ただ、聴く人が興醒めするような文章にはしたくないし、どうすれば彼の魅力をうまく伝えられるのか……。かなり悩んだが、それにはSOCKSの人間性、人となりを知ってもらうのが一番てっとり早いと考えて、ここに綴る。

筆者がSOCKSと初めて出会ったのは、2009年だったと記憶している。彼がD.S.B.(D.Stealth Bank)という同い年で構成されたグループと、YOUNGEST IN CHARGE というDJ RYOWプロデュースによるユニットのメンバーとして活動していた頃だ。当時から、SOCKSは光っていた。NEW ERAのキャップを被って、いわゆるラッパー然としたハードな服装でビシッとしている仲間たちの中で、1人だけ細身のファッションに身を包んだSOCKS。ライブでは、リリックが聴き取りやすい特徴的な声とフロウでラップし、おどけたような振る舞いをする“異端児”だった。しかし話してみれば、体育会系のしっかりとした敬語で受け答えをする好青年――。今も変わらぬそんなSOCKSのスタンスは当時とても新鮮で、ある意味ミステリアスでもあったが、筆者はそこにとてつもない魅力を感じていた。

今回、SOCKSに趣味は何かと問うてみたところ、「“歴史小説を読むこと”と“空想”」という答えが返ってきた。彼のウィットに富んだリリックでの表現や、こちらの心をくすぐる絶妙なワードチョイスはもちろん、会話の端々からも地頭のよさを感じるのは、なるほど読書に因るところが大きいのかもしれない。しかし、なぜ“歴史小説”なのだろうか。実はこれが、もう1つの趣味=“空想”と関係してくるものだった。歴史というのは、さまざまな文献や資料から大筋の事実は読み解かれているが、たとえば“当時誰が何を話したか”などという詳細までを正確に知っている人は誰もいない。当時を生きた人間は、すでにこの世を去っているから当然だ。するとSOCKSは、「信長はあのとき、こう言ったんじゃないか」とか「あの戦いがなければ、戦国の世の中はこうなっていたかもしれない」などと、歴史のロマンに思いを馳せてきたという。そういった空想でアイディアを膨らませる作業は子どもの頃からのクセみたいなものだったようで、それは当たり前に歴史以外の事柄にも及んでいく。「クレム(SOCKSの愛犬)から見たら、この行為ってどうなんだろう?」「自分が綿だったらどうなるのか」「大人気(おとなげ)って何?」といった具合に、一度考えたら空想のスパイラルが止まらなくなる性格なのだ。そういった空想で得たアイディアや視点、切り口のすべてが、唯一無二なSOCKSのラップスタイルに繋がっているのだろう。

また、SOCKSはラップを書くことも趣味だ。アルバム単位で言えば、意外にも前作「JAPANESE THAN PARADISE」から約8年の時を経てはいる今作だが、その間にもコラボシングルやEP、客演仕事などでコンスタントな露出を続けてきている。そればかりか、実はD.S.B.の自主制作アルバム「CHOCOLATE MUSIC」(2007年)以来、ラッパーとしてその歩みを止めたことはない。今でも忙しい合間を縫ってとにかく毎週スタジオに予約を入れ、ひたすら書いたラップのレコーディング作業を続けているという(用事で行けないこともあるそうだが、コロナ禍のときもそれは続けていたとのこと)。

リリックのアプローチとしては、最近でも生活や仕事の不満をはじめとしたシリアスなトピックを、ノージョークで書くこともあるそうだが、自分に求められているものがコメディだと自認しているSOCKSは、今は聴いてくれる人を笑わせたいという思いが一番強いという。「人生って結局コメディだなみたいな考えがあるし、やっぱり笑えないと意味がないと思うから。みんなが笑ってくれりゃいいな、って。“みんなを笑顔にしたい”とかそんな仰々しいことじゃなくて、“こいつバカだな〜(笑)”とか“こいつ何言っとんの(笑)”みたいなのが嬉しいです」。こんなスタンスが、現在のSOCKSを形成しているのだ。

自分の生活を変に誇張することなく、そのまま見せるべく歌にしているSOCKS。「“Osanpo”を出したときに、結構みなさんにも伝わったと感じたんです。子ども連れのお母さんやお父さんが、『あの曲、子どもも大好きで』って声を掛けてくれたり。もちろん若い子たちにも聴いてほしいけど、やっぱり自分と同じような世代の人たちに喜んでほしいんです。ファンの人と一緒に歳を取っていくのは、めちゃくちゃ尊いことだなって思うし。どこかでAndré 3000が、アルバムを出さない理由を話していたんです。『“血糖値が上がった”とか“CT撮った、大腸カメラやった”みたいな歌を誰が聴きてえんだよ』って。でも、僕は『いや、それめっちゃ聴きてえ!』と思ったし、じゃあ自分でやればいいかな、みたいな(笑)」。SOCKSの音楽はとにかくストレートで、普段の暮らしを送るリスナーが共感し得るトピックやワードに満ちているのである。

今回の「大人気大人気」では、磨きがかかったSOCKSの“飾らない姿勢”が、今までで最もピュアに表れていると感じる。日々の生活のなかには誰しも“喜怒哀楽”があるけれど、自分の“怒り”や“哀しみ”の感情を好む人はいないだろう。混沌とした日常から“喜び”や“楽しさ”だけを抽出し、ファニーに表現してクスッとさせてくれる。聴くために身構える必要はないし、聴いていてネガティブな気持ちになる要素もない。意見や考え方の相違を感じて、首を傾げるような瞬間もない――。友達や家族と楽しい会話をしながら、ちょっとした冗談で笑ってしまった経験は誰にでもあるはずだが、今作はそんな感覚と並列で聴けるアルバムだと思っている。

“SOCKSの魅力を理解するには、人間性や人となりを知ってもらうのがてっとり早い”と冒頭で述べた。友人や家族との何気ない会話が楽しいのは、相手の背景をよく知っていてリラックスできるうえ、価値観が近く共感できるポイントが多いからにほかならないだろう。それと同じように親しみやすいスタンスでラップするSOCKSが描く“平日の芸術”も、ぜひ肩肘を張らずに楽しんでほしい。

Text by Kazuhiro Yoshihashi

ALBUM


OTONAGE DININKI

大人気大人気

SOCKS

発売日 2025年8月6日(配信)

収録曲
  • 01. OTONAGE
  • 02. DOKUTOKU feat. 7
  • 03. COTTON100
  • 04. SQUEEGEE
  • 05. KAWARI feat. C.O.S.A.
  • 06. TOMICA
  • 07. BIZIHO
  • 08. おとしもの
  • 09. 狙わない feat. Yatt
  • 10. DAININKI
  • 11. KAKUGARI REMIX feat. 鎮座DOPENESS & ACE COOL

MUSIC VIDEO