前作「DRIVE MY DREAM」のリリースから約1年半、DJ RYOWが自身15作目となるブランニューアルバムを発表した。楽曲を再生した瞬間から明確に感じる音の“鳴り”の良さや、DJらしく流れと緩急のグルーヴを感じさせる構成、はっきりとした意図のもとに配された曲順、ヒップホップシーンの“今”を切り取った客演セレクトなど、アルバム全体を“一つのもの”として完璧にまとめ上げた作品だと思う。実際、ここに挙げたそれぞれのポイントには、制作の際に妥協なくしっかりこだわったということをDJ RYOW本人も認めている。しかし、30年近いキャリアと実績を誇り、今も一線で活躍できているアーティストであることを考えれば、さすがのクオリティの高さにもいい意味で驚きはない。DJ RYOWの魅力は音源だけでなく、その動きにも存分にあふれているし、せっかくの機会ということで今回は、この作品が生まれた背景を少し掘り下げてみることにしたい。逆に言えば、そこにこそ今回のアルバムの本質があると確信しているのだ。
普通の人ならば誰にでもあるような“日常”をユニークな視点で切り取り、コミカルかつクールに昇華させた自身の音楽を“平日の芸術”と称しているSOCKS。最新アルバム「大人気大人気(おとなげだいにんき)」でもそのカラーは顕著で、特にリリックでは、一切の背伸びをせず自然体で振る舞う彼が、毎日の生活を純粋に楽しむ様が描かれているように思う。これまでにもそういった楽曲は少なくなかったが、本人も「今回のアルバムは“簡単”がコンセプトの1つ」と語る通り、一度聴いただけでスッと理解できることを追求したような楽曲が今作には並ぶ。そればかりか、一度だけで耳に残ってしまうほどのインパクトも備えている。そんなアルバム「大人気大人気」は、今のSOCKSの真骨頂を知らしめる作品であると言えそうだ。
ニューヨークの夜のストリートをバックに、黒い「テスラ Model Y」のドライビングシートでステアリングを握る。そんな場面を切り取ったアートワークが目を惹く、DJ RYOWによる14枚目のリーダーアルバム「DRIVE MY DREAMS」は、ヒップホップに対する“今”の彼のスタンスや思いが色濃く投影された作品だ。現場でのDJプレイに加えて、楽曲の制作やプロデュースもハードにこなす彼らしく、前作「I Have a Dream.」からおよそ1年という短いスパンで届けられた今回の新作。内容への理解をより深めてもらうため、この機会にDJ RYOWの言葉を元にした“3つのキーワード”から、作品と制作の背景を紐解いていきたい。
昨年満を辞してリリースされたSOCKSとDJ RYOWによるダブルネームEP「JUNK TAPE」から約1年。“YouTuber”や“KAKUGARI”等、最狂タッグと評さ れるほど唯一無二のセンスとバランスでヒットソングを生み出してきた2人のEPの中で、最もバズっているのが愛犬との散歩のリアルを描いた「Osanpo」だ。SOCKSもDJ RYOWも大の愛犬家で、ただただ忠実に普段の散歩の様子を綴った今作は多方面の愛犬家たちの心を掴み、SNSでは音源を使用したペッ トとの動画が大発生。Instagramのリールでは8,500件以上の投稿が上がっている。同業者内の愛犬家にも親しまれ、特にR-指定は以前パーソナリティを務めていたラジオ番組でベタ褒めしていた。そして、今年9月に開催された史上最大の国内ヒップホップフェス「THE HOPE 2023」の"DJ RYOW with FRIEDNS"内にて、ライブの初披露と共に発表されたのが、「Osanpo Remix feat. R-指定, 般若」だ。約3万人のヘッズの前で突如発表されたこの新曲は瞬く間にSNSで大拡散。発売が期待されていたが、遂に、11月1日(犬の日)に配信リリースとなる。
I Have a Dream. ――DJ RYOWが約2年ぶりにリリースした13thリーダーアルバムには、こんなタイトルが付けられている。非常にシンプルな4単語の英文ではあるが、この言葉には大きなパワーが秘められているのだ。ご存知の方も多いと思うが、これは翌年にノーベル平和賞を受賞することとなるマーティン・ルーサー・キング牧師が、1963年の夏にアメリカの首都・ワシントンDCで行なった歴史的演説の一節。非暴力の公民権運動に尽力していたキング牧師はその日、約25万人にも及ぶ観衆の前で「私には夢がある」と人種差別の撤廃を訴えた。1968年に39歳の若さで凶弾に倒れるまで“夢”を追い続けたキング牧師の決意に、DJ RYOWは自らを重ね合わせたのである。