2019年10月にリリースした前作「DREAMS AND NIGHTMARES」から、およそ1年半。DJ RYOWが12枚目となるリーダーアルバム「Still Dreamin‘」を完成させた。世代を超えたアーティストを幅広く客演に迎えた15曲入りの新作は、果たしてどのような背景のなかで生み落とされたものなのだろうか。
「約1年半ぶり」という制作スパンは、DJ RYOWの過去作品を通して見ると通常運転とも言うべきものだが、今回は大きく2つの点で異なっていたという。1つは、COVID-19だ。
「新型コロナウイルスのせいでイベント出演が全部キャンセルになって、めっちゃ暇だった(笑)。『このまま仕事が来なかったら終わりだな』とかは思ったけど、あんまりネガティヴなマインドにはならなくて。これまでずっと突っ走ってきて、自分のことを客観視できる時間も無かったから、いろいろと落ち着いて考えられる時間ができたのは逆によかったかも。アルバムもじっくり作れたし、DJプレイと楽曲制作の楽しさが再確認できて、初心に返れたのが何より一番大きかった」
「Still Dreamin’」という前向きなアルバムタイトルが象徴するように、“Nightmare”(=悪夢)の如く世界を飲み込んだ疫病の影響すら、DJ RYOWはポジティヴに変換していたのだ。また今回の制作にあたっては、たとえば“緊急事態宣言前に直接会って話ができたアーティスト”など、参加客演陣の選定にもある程度の制限を設けざるを得なかったようだが、それもこの1年半を切り取ったからこそ生まれたものとして、即ち平時との違いも同じくポジティヴに受け止めて昇華した。しかしそんなDJ RYOWでも、前向きに受け止められなかったことがある。籍を置くBALLERSのトップ、“E”qual(M.O.S.A.D.)の音楽活動引退だ。
「自分のアルバムを作る時は毎回、『こういう曲を入れたい』っていう軸を作ってから全体像を考えて一気に進めるけど、その“軸になる曲”にはいつもヒロシさん(“E”qual)が絶対に関わってた。BALLERSとして今までずっと一緒にやってきたこともあって、アイディアを具現化しやすかったのもあると思う。だから今回痛感したのは、やっぱりオレにとってヒロシさんの存在はデカかったっていうこと。もちろん分かっていたけど…、でも想像以上だったかもしれない」
DJ RYOWの“音楽人生”は、常にM.O.S.A.D.やBALLERSと共にあった。“DJ RYOW”と名乗り始めてから23年というキャリアのほぼすべてを、憧れ続けたM.O.S.A.D.率いるBALLERSのメンバーとして過ごしてきた。その時間は、彼の人生の半分を優に超えている。
「ヒロシさんから引退の決意を聞いた時は、マジで辞めてほしくないと思った。でも相当の覚悟で決めたことだろうし、オレは『そうですか…』って言うしかない。今回の制作も含めて、『もう客演のお願いもできないのか…』とかそういう事実に直面するたびに実感して結構キツかった」
そうは話すものの、現実としてアルバム「Still Dreamin’」は完成に漕ぎつけている。背中を追い続けた兄貴であり師でもある男の引退は、BALLERSの実質的なトップを継承する自覚をDJ RYOWにもたらした。そして、TOKONA-Xが他界した時と同様に、“逆境”として彼に火を付けたのだ。今もなお彼がその歩みを止めようとしないのは、さまざまに刺激と影響を与えてくれる“ファミリー”たる仲間の存在があってこそなのだろう。
“そこで出会ったHIP HOP/ちゅうか今、胸張って呼べるHomies/こんなことは言いたかねぇかそいつらは/家族より家族思わすfamilyいうか”――TOKONA-Xが2004年に残した名曲“Where’s My Hood At?”の一節は、間違いなくDJ RYOWを含めたBALLERSの面々に向けたものだ。時と、一気に多様化した国内ヒップホップシーンの流れもあって、濃厚な時を過ごした音楽クルーとしてのBALLERSは次のフェーズに入り、今は人間としての成長も内包した“家族”のような関係性となっている。その絆を証明すべく、DJ RYOWはBALLERSという名前を守っていきたいようだ。
「やっぱりオレはそこでいろいろ勉強してきたし、今の自分があるのは完全にそのおかげだから。恩返しをしたい。曲を残すことももちろんだけど、トコナメさん(TOKONA-X)とケイシの命日にはまた大きなイベントをやりたいし、先輩も後輩も含めて、今は音楽活動休止中のメンバーがいつでも戻って来れるような状況を作っておきたい。オレがちゃんと活動しておけば、その場所はあるから。気が向いた時にノリで戻って来てくれれば、曲とかイベントとかまた一緒にやりたいなって。それまではオレがしっかり踏ん張らないと(笑)」
家族愛にも似たDJ RYOWの思いを端的に表現しているのが、今回のアルバム制作の軸となった曲――AIとAK-69、般若を迎えたリードトラック“NEVER CHANGE”だ。DJ RYOWがそう話したワケではないが、おそらくこの曲は“E”qualを含めた仲間たちに向けた曲なのだろう。
「音楽としてかっこよさはもちろん表現したけど、経験値の高い3人だからこそ踊れるとか踊れないとかそういう価値観は一旦抜きにして、中身をすごく大事にした曲。本当に幅広い世代に伝わるような曲を作りたくて。『たとえやり方は違っても、これまでもこれからも、変わらず自分なりにやっていく』っていうメッセージの曲にしたかった」
そんな軸を持つ今回のアルバムの客演には、SOCKS、VILLSHANA、¥ELLOW BUCKS、PERSIAといった地元勢をはじめ、新世代やヴェテランのラッパー、シンガーに至るまで、実に多彩な20組が参加している。先に触れた通り選定にはある程度の“制限”があったはずだが、DJ RYOWにとってのそれは、“妥協”とはまた異なる次元の話だった。ここまでシーンの第一線をブレなく走ってきた男が声を掛ければ、粒ぞろいの面々を集めることはできる。その中で最大限を“魅せる”のは、レコードバッグに詰まった12インチのみでフロアを沸かせてきたDJの真骨頂だと言えるかもしれない。実際に完成した作品を聴いてみれば、そのクオリティの高さと、DJならではのまとまりのよさを体感できるはずだ。
コロナ禍であろうとも戦友の引退に直面しようとも、揺るぎない安定感で最高の結果を導き出す――。そんな頼もしい男は、“ファミリー”の思いを背負いながらこれからも夢を追い続ける。
Mar. 8, 2021
Kazuhiro Yoshihashi
発売日:2021年3月24日
品番/価格:VCCD-2028/¥3,000+税
1. INTRO
2. Hajimari feat. Hideyoshi
3. URUSAI feat. Kazuo
4. Break it down feat. ジャパニーズマゲニーズ & 19Fresh
5. One time 4 your MIND feat. MuKuRo
6. Asian Groove feat. OZworld
7. Money Dance feat. ¥ELLOW BUCKS
8. W.T.M.F.N? feat. ¥ELLOW BUCKS, SOCKS
9. TOKONA 2020 GT feat. TOKONA-X
10. Not yet feat. SOCKS, PERSIA
11. Killin’ Me feat. KIRA, DABO & Tina
12. FEVER feat. E.R.I, VILLSHANA
13. kill shit men feat. dodo
14. ARIGATO feat. LEX
15. NEVER CHANGE feat. AI, AK-69 & 般若